2022年12月23日金曜日

座談会:SERAPH eau rouge を振り返る

ときは今世紀初頭、インターネットコンテストパークという、毎月開催のフリーゲームコンテストがありました。
若き日の僕は、そこでの入賞を目指して「ツクールの部屋」という掲示板で知り合ったなおさん、高校の同級生だったゆきつぐ、大学の入学式で隣にいたカヅヒロと一緒に「SERAPH eau rouge」という作品を、それはもう一生懸命になって作っていました。
結果として金賞という成果を得て、いろいろな人に遊んでいただくことができたのは、いちツクラーとしてなんだかんだと誇らしい思い出になっていたりします。
昨年、「20th anniv. edition」と題して移植版をリリースしたりしたタイミングでもあり、改めて当時の制作メンバー全員で当作品を振り返ってみよう、なんならちょっと先の展開も考えてみよう、ということで座談会を開催してみました。
聞き手の51がポンコツなせいで、ちょっと発散しちゃった感もなきにしもあらずですが、お読みいただけたら幸いでございます。
(ツクールアドベントカレンダー2022企画参加記事です。臥せっている間に日付が変わってしまい、6時間ほど遅刻しました。申し訳ありません)

参加者
  • 51(聞き手)……いちおう「Bay Game Creation代表」。作曲担当。
  • なお……グラフィック担当。往年のツクラーは、たぶん一度はかならずお世話になっている。くわしくはこちらを参照されたし。
  • ゆきつぐ……キャラクターデザイン、シナリオ担当。
  • カヅヒロ……モンスターデザイン、シナリオ担当。



──はっきり言ってあまりメジャーにはなれなかった作品なんですけど、SNSの時代になってみて、『昔すごく影響を受けた』とか『すごく好きだった』というようなことを言ってくださる方もいて、あらためてありがたいことだなあと。

 

カヅヒロ

「RPGツクール95 Value!のサンプルゲームになったっていうのがいちばんでかいんじゃないんですかね」

 

──トシ重さんから「おまけフォルダに入れることになりました、急だからマニュアルとかに記載はないんですけど」っていう連絡が来て、「モンスターを1体だけ描き直したいんですが!」みたいなやりとりをして。

 

なお

「『95Value』っていつ出たんだっけ?」

 

──RPGツクール2000が出てからですね。

 

なお

「そのタイミングで『95』買わないですよね、普通(笑)」

 

──でも、2000と比べて安かったんですよね。


カヅヒロ

「当時は10M超えのフリーゲームってのもあまりなかったように記憶しているし、コンテストパークからダウンロードしなくても遊べるっていうのもうれしかったかもしれないっすね」

 

ちょうどいいガバガバ感

──ストーリーとかキャラクターが印象に残っているという声もたくさんいただきました。正直、作りながら考えている感じで、あんまり作り込めなかったという感じはしているんですが。

 

ゆきつぐ

「『こういう感じのシーンがあるんだよ』という説明を受けて、授業の合間に書くみたいなことをやっていたから、ツギハギもいいところなんですわ」

 

カヅヒロ

「だけど、そのガバガバ感がいい具合にプレイヤーの想像できる余地になっている側面もあるかと思うんですよね」

 



ゆきつぐ

「初期のFFみたいな」

 

なお

「グライドとシビル、三姉妹の関係とかほとんど明示されていないですよね。匂わせくらいはあったか。そういうの、いいですよね。あとから気づいたときに『あれもそうだったのか、これもそうかもしれない』っていうポイントが散りばめられていると、気づく楽しみも出てくるし」

 

──高校時代にゆきつぐと一緒に作っていて、大学に入ってからカヅヒロに加わってもらったという流れがあって、そこで一度断絶があるんですよね。そのときに言われたのが『何から何まで伏線が貼り逃げになっている。ひどい』と(笑)」

 

カヅヒロ

「いま出来上がっているところまでを自分なりに解釈して、盛っていくみたいなことをやって、それを検閲するゆきつぐさんもいないと。そのへんが、想像の余地として残ったんじゃないかなあっていう気はするんですよね」

 

「素材」のパワー

──そのガバガバの物語と組み合わせられたのが、緻密に動くちびキャラのドット絵と。おかげで、実際の話以上にしっかりした物語に見えていたんじゃないか。僕はそう思っているんですが。




ゆきつぐ

「とにかく、なにかひとつよかったとかというより、全体が組み合わさったときの『雰囲気がよかった』ということに尽きるんでしょうね」

 

なお

「僕はBGMの力はすごくでかいと思いますよ。特にメインテーマは本当に神曲だと思う」


──ありがとうございます。


なお

「あんな素敵な曲のあるツクールのゲームなんて、探してもあんまりないんじゃないかな。嬉しいときとか悲しいときとかっていうだけじゃなくて、いろいろなシーンに適応できるだけの力があるというか」

 

──あのあといっぱい曲作りましたけど、正直なところ、あれ以来『これぞ』というメロディーを作れている気がしないです。

 

カヅヒロ

「ひとつのテーマをいろいろな場面で使うっていうのも、オリジナルのBGMならではだし」


なお

「フィールドもよかったよね」


──これでもかってくらい聞かせているので、印象に残りやすかったのかもしれないです。


 

物語と「システム」

──オリジナル版、移植版ともに「RPGツクールとして用意されたシステム」をそのまま使うということをやってきたのですけど、もしゲームとしてのあらたな要素を加えるとしたらどうなんでしょう。

 

カヅヒロ

「RPGの『遊び』の部分って、やっぱり戦闘だと思うんですよ。そこに大きく影響するような新要素を入れて大丈夫なのかなあという気はするのだけど」

 

なお

「僕は逆に、RPGのコアって戦闘じゃないと思う。たとえば、SERAPHってモンスターとの戦闘がなくても成立しますよね。というか、せっかく凝ったストーリーとか演出があるのに、戦闘がただの足かせになっちゃってる」


──なるほど。


なお

「SERAPHの場合は、基本的に光の主人公側と闇の皇帝側の二大勢力の話ですよね。そこに謎のモンスターがいて、なんかしらないけど戦わないといけない(笑)」




ゆきつぐ

「あるっちゃあるんですよ、設定。闇は肉に引っ張られた存在。光は精神を依りどころにした存在。闇は欲望に引かれているというところで、最終的に魔物化する……っていう」


なお

「そんなのあったんだ。ちらっとでもあるかないかでだいぶ違いそう!」


──最後の最後に一瞬、そういうシーンがあるんですよ。帝国兵のキャラチップが魔物に変わるっていう……。




ゆきつぐ

「空中要塞までいくと、太古の魔物が復活するんだというのもあったな」


なお

「たとえば、ロードス島戦記とかにもあったじゃないですか。ベルド皇帝のなんたらでモンスターが凶暴化して襲ってくるとかね。そのくらいの理由付けでもいいからほしい」


ゆきつぐ

「ストーリー上は帝国と戦っているのに、相手はモンスター。そのへんの立て付けの悪さっていうのはありますね。じゃあ戦闘なんかいらないかっていうとそうでもなくて、RPGのおもしろさは戦闘、っていうのもわかる。ただの障害なのか快感をあたえるのか、そこははっきりさせたほうがいい。快感を与えるならシステム上の工夫も必要かもしれないし」


なお

「ゲームとしての根幹をいじる話ではなくて、ステータスで何を出すのかとか、買い物をどうするのかとか、そのへんでオリジナリティがほしい、って話なんですよね。ツクールのデフォルトってすごく遊びづらいでしょう」


カヅヒロ

「僕らの中に技術者がいないっていうのが、そのへんのフレンドリーじゃない感の要因というか」


──基本的にツクール95みたいな作り方してますからね。


なお

「リメイクするならね、そこ新しくしたいですよね。僕つくれますよ」


──ゲーム、つまり『遊び』としての新機軸うんぬんということもあるかもしれないが、今回でいうといかにSERAPHという物語を引き立てられるかと。


リメイクするならば

──移植版はなんとしてでも「20周年」に間に合わせようということで進めてきて、あまり深いことを考えずにひとまず形にしてみたというのが現実で。せっかくならちゃんとリメイクして、今度こそメジャーになりたいっていう欲望もあるわけです(笑)。この物語を好きになってくれそうなのは、どういう方たちなんでしょうかね。やっぱりスーパーファミコン世代ですかね。


ゆきつぐ

「とは限らないんじゃないですかね。異世界転生ものが大流行みたいなことでいうと、王道ファンタジーは世代問わずみんな大好きなんじゃないかとも思うし」


なお

「本当にレトロゲーム大好きな層を狙いに行くなら、ファミコンテイストに寄せていくとかもありますよね。層が広がるかっていうとそうじゃないかもしれないけど。移植じゃなくてリメイクってことなら、大胆に変わる部分があってもいいと思いますよ」


カヅヒロ

「個人的には、持って生まれたものを磨いて、最近時の言葉でいうところの『性癖』にささるものにしていくのがいいんじゃないかとは思うんですよね。SERAPHが完成した直後くらいに『おれはSERAPHのいちばんのファンだ』って言っていたんですけど」




──言ってた。


カヅヒロ

「そのファンボーイ的に、『ゲームとして良くなったけどぜんぜん違うなあ』っていうのはあんまりしたくないなあ、というのがあって。モンスターをちゃんと今の画力で描き直して『本当はこういうふうにしたかったんだ』というのがわかるようにしたいというのがひとつ。あとは、さんざんいわれているゲームバランスをなんとかしたいというのがひとつ。このふたつができればいいんじゃないかと思っています」




 ──ありがとうございました。SERAPH eau rouge、20年ぶりに触ってみて、記憶の中にあるのよりちょっとだけ面白かったのが個人的な発見で。少し丁寧に議論しながら「リメイク」にもチャレンジできたらなと思っています。引き続きよろしくおねがいします。


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